AIで、消防の仕事はどう変わるのか。

消防AI開発者と考える。消防とAIコラム 第一弾


AIで、消防の仕事はどう変わるのか。

仕事がなくなるのではなく、「人が時間を使う場所」が変わる
生成AIの進化によって、さまざまな仕事のあり方が変わり始めています。
文章を作る。
情報を探す。
資料を整理する。
大量の情報を比較する。
過去のデータから必要なものを見つける。

これまで人が多くの時間を使ってきた仕事の一部を、AIが短時間で処理できるようになりました。
では、消防の仕事もAIによって大きく変わるのでしょうか。

私は、変わると考えています。
ただし、
「AIによって消防士の仕事がなくなる」
という単純な話ではありません。

むしろ大きく変わるのは、
消防士が、どの仕事に時間を使うのか。
という部分ではないかと考えています。

消防の仕事には「情報を扱う仕事」が多い

消防というと、火災・救急・救助などの現場活動をイメージする人が多いと思います。
しかし実際の消防業務には、非常に多くの事務・調査・確認作業があります。
例えば、
・消防法令を調べる
・通知や告示を確認する
・マニュアルを探す
・過去の事例を確認する
・報告書を作成する
・活動記録を整理する
・研修資料を確認する
・必要な情報を複数の資料から探す

これらは重要な仕事ですが、その多くは、
「情報を探す」
「情報を整理する」
「情報を比較する」
という性質を持っています。
この領域は、AIが急速に得意になっている分野です。

AIが得意なのは「情報を扱う仕事」
現在のAIは、膨大な情報の中から必要なものを探し出したり、複数の資料を整理したり、
文章のたたき台を作ったりすることが得意です。

例えば、これまで人が、
法令を探す
↓
関連する通知を探す
↓
必要な部分を読む
↓
内容を整理する
↓
判断材料をまとめる

という作業をしていたとします。
このうち、
探す
整理する
比較する
要約する
下書きする
という部分は、AIがかなり支援できるようになってきました。

これによって、これまで30分かかっていた情報収集が数分で終わる。
1時間かかっていた資料整理が短時間で済む。
そうした変化は、消防業務でも十分に起こり得ます。

では、人は何をするのか
ここで重要なのは、
「AIが仕事をするなら、人は何をするのか」
ということです。

私はここに、AI時代の消防を考える上での本質があると思っています。

AIが得意なのは、情報を扱う仕事。
一方で、
人が担う仕事は、状況を扱う仕事。
だと考えると分かりやすいです。

現場を見る。
周囲の変化を感じ取る。
違和感に気づく。
住民や関係者と話す。
複数の選択肢から優先順位を決める。
不確実な状況の中で判断する。
その判断に責任を持つ。

こうした仕事は、単純に情報量だけでは決まりません。

経験。
人間関係。
現場感覚。
状況認識。
価値判断。
さまざまな要素が関係します。

だからこそ、AIが進化しても、人が担う役割はなくなりません。

むしろ、
AIが情報処理を担うほど、人には判断が求められる
ようになると考えています。

「知っている人」の価値はどう変わるのか
これまでの消防組織では、
「あの人は詳しい」
ということ自体が、大きな価値でした。

もちろん、これからも知識は重要です。

ただし、AIによって必要な知識に短時間でアクセスできるようになると、
知識を持っていることだけでは、差がつきにくくなる可能性があります。

その代わりに重要になるのが、
・その情報は正しいのか
・本当にこの現場に当てはまるのか
・例外はないのか
・優先すべきことは何か
・住民にどう説明するのか
・最終的にどう判断するのか
という能力です。

つまり、AI時代の消防では
「知識量」だけではなく、
知識をどう使うか
がより重要になります。


AIを使うほど、人の能力が重要になる

これは少し逆説的ですが、
AIが賢くなるほど、人に求められる能力は低くなるのではなく、
むしろ高くなる可能性があります。

なぜなら、AIが答えを出してくれるからこそ、
その答えを評価する力
が必要になるからです。

例えばAIが、
「この場合は、この法令が適用されます」
と回答したとしても、
それをそのまま採用してよいとは限りません。

根拠は正しいのか。
別の規定は関係しないのか。
条例はどうなっているのか。
例外規定はないのか。
最終的には、人が確認しなければなりません。

だからこそ、これから重要になるのは、
AIを使う能力だけではなく、
AIを疑う能力
でもあります。

消防士に求められる力は「考える力」へ

これから価値が高まる能力として、私は次のようなものがあると考えています。
・問いを立てる力
・根拠を確認する力
・例外に気づく力
・情報を現場に当てはめる力
・優先順位を決める力
・分かりやすく説明する力
・人との信頼関係をつくる力
・最後に責任を持って判断する力
これらは、AIがあれば不要になる能力ではありません。

むしろ、
AIがあるからこそ、より重要になる能力です。

AI導入の目的は「AIを使うこと」ではない

消防にAIを導入するというと、
「新しいシステムを導入する」
という話になりがちです。

しかし、本当に重要なのはそこではないと思っています。
AI導入の目的は、ただAIを使うことではありません。

AIによって、
探す時間を減らす。
整理する時間を減らす。
確認作業を効率化する。
そして、その時間を、
現場判断。
訓練。
人材育成。
住民対応。
組織づくり。

といった、
人にしかできない仕事に使う。

これが、AIを消防に導入する本当の意味ではないでしょうか。

AI時代の消防は、「知っている人」から「考えられる人」へ

これから消防の仕事は、大きく変わっていく可能性があります。
ただし、消防士が不要になるわけではありません。

むしろ、
消防士にしかできない仕事の価値が、より明確になる
と考えています。

AIにできる仕事はAIに任せる。

その分、人は、
考える。
判断する。
伝える。
育てる。
現場に向き合う。

そうした仕事に、より多くの時間を使う。

私は、それがAI時代の消防の一つの姿だと考えています。

限りある時間を、人にしかできない仕事へ。

FIRENOTEでは、消防現場の課題をもとに、AIを含むさまざまな業務支援の形を考えています。
AIを使うこと自体が目的ではありません。

消防士が、本来向き合うべき仕事に、より多くの時間を使える環境をつくること。
それが、これからの消防に必要なAI活用だと考えています。



次回予告
消防AI開発者と考える。消防とAIコラム 第二弾
「これから求められる消防士は、何が違うのか。」

AIによって知識へのアクセスが簡単になる時代に、消防士の価値はどこに生まれるのか。
次回は、AI時代に求められる人材と能力について考えます。